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赤字アイテムの受注 [管理会計]

今回は赤字のアイテム(製品)の受注に関してです。

弊社では新規製品の受注時には経理財務というよりも、企画や営業が中心に原価を計算することが多かったのですが、赤字のアイテムの認識に誤解がありました。

営業部長は「赤字アイテムは絶対に受注するな。」「新しいマーケットへの参入商品なので、赤字覚悟で認知をあげる。」等々の戦略を持って各アイテムを受注していたのですが、営業部長から見ると利益は営業利益【売上高-(売上原価+販売費・一般管理費)】が絶対的指標なので、営業利益が黒字か赤字かが重要だったのですが、経理の視点は少し違いました。

経理からの意見としては、現在工場のキャパシティには余裕があり、固定費を回収する必要が有るため、限界利益(売上高―変動費)が黒字であれば、将来的に営業利益でも黒字化する見込みがあるので受注すべき。でした。
あるケースでは、営業部長は営業利益が赤字アイテムに対して「売れば売るほど赤字」という認識でしたが、実際は仮に他のアイテムの受注や見積以上のオーダーがくると工場全体の生産数量が増えて固定費が薄まるため、黒字の可能性もあったのです。

どういうことかと言うと、
例えば以下の様な受注検討があったとします。

売値       100円
変動費      55円
固定費      55円
営業利益    ▲10円

確かにこのアイテム単体で見ると営業利益では赤字ですが、限界利益では45円の黒字になっています。これは言い換えるとこのアイテムが工場全体の固定費を回収していると言えます。

将来的に別のアイテムを受注の可能性やこちらのアイテムの増産の可能性もあり、さらに全体の固定費が薄まればこのアイテム単体でも以下のような利益シュミレーションが出来るわけです。

売値       100円
変動費      55円
固定費      40円
営業利益      5円

ただこれはあくまで工場のキャパシティに余裕があるという前提での話です。
例えばキャパシティに余裕がない状態で受注できるアイテムが限られているという制約がある場合は、当然より高い利益を生むアイテムを取捨選択し受注すべきです。
またあまりにも限界利益が低いアイテム(材料費が高い)は、仮に仕損が予想よりも増えた場合は限界利益も赤字になるリスクが高いので、受注は避けたほうがいいかもしれません。
限界利益が赤字になると文字通り「作れば作るほど赤字になる」ので、早急に対処が必要です。

今回もやはり固定費に対する理解の重要性と投資や受注の判断は様々な視点から複合的に判断すべきというお話でした。

チャージ・レート(賃率)の落とし穴 [管理会計]

製造現場の方たちも必死に原価低減活動を行っており、その努力にはいつも頭が下がります。ただ管理部門から正しい数値や考え方を伝えてあげないと努力が実らない。というケースがあります。

例:
製造マネージャーのジョナサンは、加工費が増えてきていることを懸念しており、マシン改善により作業時間を減らす事で加工費を下げるアイデアを思いつきました。

結果的に5時間の作業時間の改善が見込み、意気揚々と損益を見るのを楽しみにしていたのですが、結果は加工費が先月より上がっているという驚愕の事態に。
何が起こったのでしょうか?


期間 作業時間 チャージレート 加工費
7月実績 200時間 $50 $10,000
8月予想 195時間 $50 $9,750
8月実績 195時間 $53.85 $10,500


ジョナサンは8月は5時間の作業時間の改善で、250ドルの加工費削減をできると予想していたのですが、チャージ・レート(賃率)の事を考えていませんでした。

チャージ・レート(賃率)=総加工費/総作業時間

いくらマシンの改善で稼働時間が短くなっても、以下のように人件費や電気代が変わらずさらにマシンへの投資で減価償却費が増加したため、賃率が上がってしまったのでした。

人件費 減価償却費 電気代 加工費合計 総作業時間 チャージレート/1hr
7月実績 $5,000 $4,500 $500 $10,000 200 $50.00
8月実績 $5,000 $5,000 $500 $10,500 195 $53.85



何が言いたいかと言うと、現場の努力を結果に結びつけるために管理部門(経理財務)が、この改善が最終的に損益にどう影響するかを現場と共に考え、アドバイスする必要があるということが一点。
製造現場の方々はチャージ・レート(賃率)等の概念には精通しておらず、あくまで生産性やマシンの性能に目が行きがちです。またそれは専門性や役割的にしかたない部分もあります。
そのため、いかに経理財務が現場と密にコミュニケーションや連携を取り、最終的な原価の改善につなげていくかということが非常に重要になってくると思います。

もう一つは、固定費を管理することの重要性です。
固定費を征するものは原価を征す。とまでは言わないですが、企業の規模が大きくなり自動化が進んでいくと固定費の割合が非常に大きくなっていきます。
適正な投資と日々の固定費の削減が製造業では非常に大きなテーマになっています。



標準原価はどう設定すべきか? [管理会計]

製造業であれば毎年もしくは半期/四半期に一度は標準原価を設定しますが、
どの程度のレベルを標準とすべきか色々と考えがあると思います。

「原価計算基準」で認められているのは、以下の2.現実的標準原価と3.正常原価になります。

1.理想的標準原価(ideal standard costs)・・・簡単に言うと操業度もMAXかつ最高能率、仕損、現存無し、遊休時間無し。と完全に理想で現実的には使えません

2.現実的標準原価(expected actual standard costs)・・・ある程度の良好な能率のもとにおいて達成が期待できる標準原価。通常の減損、仕損、遊休時間などの余裕を含む原価

3.正常原価(normal standard costs)・・・異常な状態が無く過去の平均

4.目標標準原価(Target standard costs)・・・これはオリジナルですが、過去数年間のベストの数値をターゲットとして設定した標準原価

達成可能確率順に並べると以下の様になり、原価差異の大きさも右に行けば行くほど大きくなるというイメージです。
3.正常原価⇒2.現実的標準原価⇒4.目標標準原価⇒1.理想的標準原価

さてその上でどの標準原価を用いるか?ですが、
これは当然会社の実力や状況により変わってくると思います。

私が経験した事を話すと、まず赴任した当時は会社の状況が非常に悪く、データや書類等も揃っておらず、当然「見える化」もできていませんでした。損益は悪いので会社の状態が悪いのは皆が認識しているのですが、具体的に何から直せばいいのかがわからない。(当然課題は複数あるのですが、多すぎて何から手をつけていいかわからない状態でした。)

そういう状態の場合は、まずは3.正常原価を設定するのがいいと思います。まずそもそもここ数年どういう原価で推移していたのか?実力を把握するためにデータを揃えるところからスタートで、徐々に問題点が明らかになるにつれて優先順位をつけて原価を改善していく。と言う流れです。

そして、少し実力がつき損益や各種数値が上向きになってきたら2.現実的標準原価や4.目標標準原価の設定を検討していけばいいと思います。
我々の場合は、事業計画等公式に外部に提出するのは2.現実的標準原価で設定し、別途非公式な社内目標として、4.目標標準原価を設定していました。
今問題になってる某芝さんのチャレンジとは別物です。あくまで法令遵守が大前提です。
個人的にはAppleでは無いですが、外部向けの業績予想はややコンサバティブに出しておいて実績はそれを上回る。がいいのではないでしょうか。







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